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 「ベーグルまであとわずか(前編)」  弦崎あるい様 執筆作品

・・・・・・・・・・・・・朝?
眩しい光がカーテンから漏れる。
寝ぼけながらあたしは辺りを見回す。
・・・・・・ん?ここどこだっけ?
部屋に見覚えがない。
そしてふと横を見ると、あるものが目につく。
「えぇぇ・・・・・。」
思わず大声を出しそうになったが、昨日の事を思い出し、自分の口を塞いだ。
・・・・・・いい頭の刺激になった。
あたしはため息をつく。
何事もなかったように寝ている保田さんを横目に見ながら。
あたしは昨日の事を思い出す。

昨夜。
ここは都内某所にあるテレビ局の前。
時計は10時を回っている。
「じゃ、明日8時にスタジオ入りやからな。遅刻するんやないよ。」
中澤さんが最後に念を押して言った。
「じゃ、お疲れさん。」
その言葉を合図に皆それぞれ帰途につく。
ふと保田さんが目に入る。
なんだか顔色がよくないように見える。
あたしはなんだか心配になって声をかける事にした。
「一緒に帰りませんか?」
「え?うん。いいよ。でも、よっすぃ〜から声かけるなんて珍しいね。」
保田さんは不思議そうな顔をしていたが、笑顔で了承してくれた。
顔なんだか熱を帯びているように見えた。
駅に行くまでたわいもない話をした。
年上っていう事もあってかあたしから話を振りずらいのを気遣って、保田さんの方から色々と話を振ってくれた。
こういうところは大人だなと思う。
そして駅につく。
なんだか顔が上気している。
「あ、あの・・・。」
あたしは思いきって聞いてみる事にした。
「なに?」
「風邪ひいてるんですか?」
少しの沈黙の後、
「うん。バレちゃったか。そんなに大した事ないんだけど。3日前くらいからひき始めちゃって。でも、別に大した事ないから。平気、平気。」
保田さんはそう笑って元気に振る舞う。
そして改札の方に歩いていく。
あたしにはそれが空元気に見えた。
「じゃぁね。送ってくれてありがとう、よっすぃ〜。」
振り返って手を振る。
・・・・・・まぁ、保田さんだって子どもじゃないんだから一人で帰れるよね。
そう思ってあたしは自分の家の方向の線に向かう。
・・・・・・本当はここからじゃ少し遠回りなんだけど、まぁ帰れない事もないし。
キップ売り場にいき、自分の家の駅の金額を調べ、お金を入れようとしたその時、
ふいに空元気に振る舞う保田さんの姿を思い出す。
・・・・・・・・・・・・。
あたしは走り出した。
保田さんが向かっていった改札へと。
・・・・・・なにやってんだろあたし。でも、なんか心配なんだよね。
適当にお金を入れてキップを買い、改札を抜け、保田さんがいるホームを探す。
・・・・・・確か、こっちに来たとと思ったんだけど。
とりあいずそのホームに降りてみる事にした。
辺りを見回し保田さんの姿を探す。
・・・・・・あっ!いた!
あたしが近く寄ろうとすると、保田さんがふらっと倒れるところだった。
あたしは保田さんの体を支える。
「すいま・・・・・えっ?よっすぃ〜?」
驚いた顔であたしを見上げる保田さん。
「大丈夫ですか?」
何が起こったのか分からないようで、少し戸惑っている。
「え?あ、うん。」
そう言って保田さんはしっかりと立ち上がる。
「で、どうしてよっすぃ〜がここにいるの?だってこっち方面じゃないよね。」
と不思議そうな顔をして聞く。
「え、まぁ、えっと、あの、なんだか心配になって来たんです。だって、今みたいに
倒れられたら困りますから。」
あたしはなんて言っていいのか分からなかった。
「ありがとう。でも、家の人に心配かけるから帰った方がいいよ。私は大丈夫だからさ。」
と保田さんは力無げに笑う。
・・・・・・どう見たって大丈夫じゃないと思うんだけど。
「いや、その、キップ買っちゃったんで、送りますよ。」
とあたしは食い下がる。
「いくら買ったの?」
あたしは保田さんに言われて初めて自分の買ったキップを見る。
お金を適当に入れ、よく確かめもせずにボタンを押したために自分でもいくら買ったのか分からない。
「ゲッ!・・・・・・930円。」
キップを見て思わず硬直してしまう。
・・・・・・ここまでお金を入れなくても。遠距離じゃあるまいし。
「家まで130円なんだけど・・・・。」
保田さんは申し訳なさそうに言った。
「ウソ、ですよね?」
あたしは失笑して言った。
「そりゃウソだけど。」
「そんな近くだっ・・・・・・って、えぇ!」
あたしは目を見開く。
「いくらなんでもそんなに近くないよ。乗り換えも入れると460円。」
保田さんは楽しそうに笑う。
「そ、そんなぁ。ウソ言わないで下さいよぉ。」
・・・・・・でも460円か。はぁ。もう少し考えて買えばよかった。
「だって信じるとは思わなかったからさ。」
保田さんはいたずらぽっい笑みを浮かべる。
・・・・・・こういう顔もするんだなぁ。
黒く丸い瞳が一瞬細まると、ネコを思わせる。
あたしにはそんな保田さんが意外だった。
保田さんっていつも真面目って感じだし。そりゃふざけてる時もあるけど、大体冷静な目で周りを見てるから意外に思えた。
・・・・・・そう言えば保田とよく話す機会なんてなかったもんなぁ。
「お金は後で返すから。心配しないでいいよ。」
今度は少し真面目な顔をして言う。
・・・・・・こういうところは真面目なんだなぁ。
「あ、別にいいですよ。自分でした事ですから。」
とあたしは遠慮する。
「そういうわけにも・・・・・・・・・。」
「あたしちょっと家に連絡しておきます。帰りが遅くなるって。」
あたしはこの話題を変えたくて保田さんの言葉を遮った。
「ちょっと待った!泊まっていきなよ。もう夜遅いんだし。家、反対方向でしょ?」
保田さんはにっこりと笑って言った。
・・・・・・知ってたんだ。
「え、いや、でも。そんなことしたら悪いです・・・・・・・・・。」
「いいよ。それにもう夜遅いんだから事故にでも遭ったら困るし。まぁ、嫌だって言うなら無理には言わないけど?」
今度は保田さんがあたしの言葉を遮って言った。
・・・・・・そんなこと言われたら断れないよぉ。だって断ったら保田さんの事が嫌いって事になるし。
「じゃ、じゃぁ、お言葉に甘えて。」
とあたしは苦笑して、公衆電話に向かった。
・・・・・・意外に強引なんだなぁ。なんかそういうところって中澤さん似てる。
やっぱり近くにいると似ちゃうのかな。
あたしは公衆電話を見つけると手早く電話をかける。
「ちょっとした事情があって、娘。の保田圭さん家に泊まることになった。」と言った
親は「そういって男の家に泊まるんじゃないか。」なんて言ってたけど、そんなに言うなら保田さんに連絡していいよと言うと、いちよ信用してくれた。
・・・・・・まぁ、本当の事なんだから確認されたっていいし。
あたしは電話をなるべく早く終わらせたかった。
もしかしたら保田さんが倒れてるんじゃないかと思うと自然に歩調が早くなる。
戻ると保田さんはちゃんと立っていた。
「ご両親なんだって?」
あたしは少し息が荒くなっている。
「あ、はい。い、いいって。」
「そっか。よかった。」
保田さんはそう言ってから、ニヤリと笑う。
「倒れてるんじゃないかって思ったしょ?」
まるであたしの心中を読んだように言う。
「え?!そ、そんなことないですよ。」
あたしは平然を装おう。
「図星か。私はそんなにヤワじゃないよ。」
と笑って言う保田さんが、さっきよりも顔が赤い。
顔色だっていいとはいえない。
そこにホームのアナウンスが入る。
そして電車のライトが見える。
「この電車でいいんですか?」
「うん。急行だから少し早く着くね。」
電車が勢いよくあたし達の側を駆け抜け、ゆっくりと止まる。
「ちょっと段になってますから気を付けて下さい。」
とあたしは保田さんの手を引いて車内に入る。
「ありがとう。」
赤い顔をしたまま保田さんが言った。
車内は比較的すいていた。
・・・・・・よかった。ヘタに混んでて騒がれでもしたら保田さんが辛いだろうし。
この分なら騒がれる心配はないな。
あたし達はなるべく人の少ない両車で腰を落ち着かせた。
なるべく人がいない方がいいと思ったからだ。
「3つ目の駅で降りるから。」
保田さんは少し辛そうに言った。
少しじゃなくて、本当はかなり辛いんじゃないんだろうか。
「それじゃぁ駅に着くまで寝てていですよ。あたしが起こしますから。」
・・・・・・今のあたしにできることはこれくらいしかないし。
「うん。じゃ、少し寝るね。」
保田さんは目を閉じた。
あたしは暗い景色をぼーっと眺めていた。
明るければ景色でも見て暇が潰せるけど、こう暗いとすることがない。
車内はシーンとしていた。
とても静かだった。まるで二人しかいないみたいに。
・・・・・・ん?
ふと横を見ると保田さんがあたしの肩によっかかっていた。
こうして見ると保田さんと年が違わないように思える。
・・・・・・まぁ、もともと大して変わらないんだけど。
服装だって感覚だってそうあたしと変わらない。
でも一番にそう思えた理由は、寝ている顔がすごく子どもぽっかったからかな。
「次で3つ目か。」
色々考えているうちに、どうやらもうすぐ3つ目の駅に着くようだった。
って言ってもそこから乗り換えないといけないんだけど。
「ん?う、う〜ん。」
保田さんが目を覚ます。
「もうすぐ着きますよ。」
「そうなの?なんかすごい眠ってた気がする。」
保田さんが大きく伸びをする。
さっきより顔色がいいように見える。
「乗り換えって、どれぐらい乗るんですか?」
「2つだよ。駅に着いたら10分くらい歩くけど。それより眠くない?」
保田さんはあたしの顔を覗き込む。
・・・・・・自分の方が辛いのにあたしに気を遣ってくれてる。
こういうときでも他人の心配ができる保田さんを純粋に尊敬する。
「平気です。保田さんこそ大丈夫ですか?」
「あたしなら平気。少し寝たらちょっとよくなったから。・・・・・さてと。」
保田さんは立ち上がる。
「どうしたんですか?」
「もうすぐ駅だから立とうと思ったの。急に立てないから。」
保田さんは笑顔で答える。
「無理しないで下さいね。」
と言った瞬間に電車が大きく揺れ、保田さんの体勢が崩れる。
あたしはなんとか保田さんの体を支える。
「あははは。ありがとう、よっすぃ〜。」
保田さんはバツが悪そうに笑った。
電車がゆっくりと止まる。
「あ、着いたみたいだね。降りよ。」
そういって保田さんはあたしの手を引いて電車から降りた。

「ベーグルまであとわずか」(前編)
後編へ。

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