「伊豆のカワバタさん」 みっちゃん様 執筆作品
「伊豆って・・」
楽屋にて・・・・希美が、ハンドブックを見ながら呟いている。
「辻ちゃん、どうかしたの?」
「あ、ごとーさぁん♪あのぉ、伊豆って何処ですかぁ?」
「へ?」
聞かれた真希は、首を傾げた。
「え、えっとぉ〜・・」
二人でハンドブックと真剣に睨めっこする中、圭が冷静にこう言った。
「目次を見れば?てか、何で東北に有るのよ。伊豆は関東地方の下の方でしょ」
見当違いの場所を見ていた真希は、数秒凍った後、照れ笑いを浮かべながら誤魔化した。
「や、やだなぁ、そんなの知ってるもん。ちょっと遊んでみただけだってばさ」
「そうなんですかぁ?」
希美が、泣きそうな目で真希を見る。どうやら彼女は、真剣に調べていると思ったらしい。
「あ、えっと、あのね、『言葉のあや』ってヤツで・・」
慌てる真希を見かねて、圭がその本をひょいっと取り上げる。
「え〜っと・・・あ、有った。ほら、辻、ここよ」
「あ〜〜、有ったぁ〜♪おばちゃん、有り難う御座いますぅ♪」
泣き止んでお礼を言う希美に、圭は苦笑しながら、
「あぁ、どう致しまして・・」
「圭ちゃん、ありがと」
真希の囁きが、耳元で聞こえた・・。
「あ、そうだ!」
それから少し経って、希美が、何かを思い立ったように叫んだ。
「ごとーさん、ごとーさん」
「んん?ふぁあふぃい?ふいぃ・・」
手に持っていたお菓子を頬張りながら問い返す。
「『伊豆の踊り子』って、誰が書いたんですかぁ?」
「え、ええぇぇぇぇ!?え、えっとね、それはね、えっとぉ〜・・・・授業で習って無い?」
「・・・・・・てへ♪」
冷や汗を掻きながら、ニパッと笑う。真希は悟った。
(習ったけど、忘れたなこいつ)
無意識の内に圭を探すが、生憎と今はトイレに行っているらしい。
「・・・ごとーさん、どうしたんですかぁ?」
「え、え〜っとね・・・・あ!思い出した」
「ホントですかぁ♪」
真希は、自信満々でこう答えた。
「『ダザイオサム』だったと思う。確か」
暫し、沈黙が二人を支配した。真希の顔に、冷や汗が滲む。
「・・・・ごとーさん、凄いですねぇ♪」
希美が静寂を破った。尊敬の眼差しを真希に向ける。真希は調子に乗って、えへん、と胸を張った。
「聞きたい事が有ったら、何でも聞きなさい。この私が答えてしんぜよう」
「はいですぅ♪」
丁度その時、圭が戻って来た。その手に持っているのは、『伊豆の踊り子』だったが、カバーが張ってあって、外からでは解らない。
「はれ?圭ちゃん、その本何?」
そうとは知らない真希は、不用意に聞いてしまった。
「ん〜?トイレの帰りに、マネージャーさんが持って来てくれたの。川端康成の『伊豆の踊り子』。一応読んどけばさ、演じる役柄にも親しめるだろうって」
「・・・『カワバタヤスナリ』?」
聞いた瞬間、真希の背中に嫌な汗が流れた。
「うえっぐ・・」
その時、真希はビクッと肩を震わせ、恐る恐るそちらを振り返る。
「ごとーしゃん・・」
既に泣き顔の希美が、そこに居た。真希は慌てふためき、圭は訳が解らずに只つっ立っていた・・。
それから泣きやんだのは、飴を持って来た圭織に、飴を貰った時だった。
真希は、嘘を教えたという事で、希美に二十回謝罪させられた。(この日は圭織が不機嫌だった)
ちなみに、監督不行届きという理由で、圭は圭織に説教を食らったらしい・・。
「伊豆のカワバタさん」(完)
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