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 「ある秋晴れの日に」  みっちゃん様 執筆作品

 都内のある住宅街の一角に、とある一家が住んでいる。
 玄関から出て来た男は、少しぽっちゃりした印象を受けるが、それほど太っている訳でも無さそうである。
「んじゃ、行って来るな」
 彼の視線の先に居るのは、赤ん坊を抱えた女性だ。
 髪は金に近い鳶色で、鼻ピアスも有るが、周りの人達はそれほど驚いてはいない。どうやら、日常の風景らしい。
「うん、行ってらっしゃい」
 赤ん坊に手を振らせて見送ると、家の中に戻って家事を再開した。

 洗濯物を放り込み、スイッチを押す。
 濡れた手を拭いて居間に戻ると、赤ん坊の泣き声が響いた。
「玲夢〜、どうしたの〜っておしめだね。はいはい、今取り替えるから」
 ぐずる赤ん坊を寝かせ、慣れた手つきで取り替える。
 洗濯物を干し、一段落した処で、ほっと一息吐いた。

 とその時、チャイムが鳴った。
「おろ?こんな時間に誰?」
 訝しく思い、声を掛けると、
「宅配便でぇ〜〜す」
「あぁ、はいはい・・・・・って、どっかで聞いたような・・」
 記憶を辿ると、思い当たるまでは一瞬の事だった。
「あんたねぇ、そんな手に引っ掛かるとでも思ったの?」
 ドアを開けて言うと、目の前の人物は、帽子を取ってペロっと舌を出した。
「えぇ〜〜〜、彩っぺ、何で解ったのさぁ〜」
 目の前の小柄な女性は、不服そうに頬を膨らませた。
「あのねぇ、幾ら何でも、こんな背の小さい宅配屋さんが居ると思う?それに、誰かが送って来るなんて聞いて無いしさ」
 ぶーぶー言う彼女を家に招き入れようとした。

「コラァ、矢口〜〜!」
 二人が肩を竦めて玄関の向こうを見ると、背の高い女性が、怒ったような表情で仁王立ちしていた。
「あたしの事はどうしたのさ!!」
 両手を腰に当て、真里を睨んでいる。二人は一瞬、彼女の栗色の髪が逆だったかのような錯覚を覚えた。
「あ、圭織。ごめん、忘れてた」
 彩を尻目に、真里の肩を掴む。
「あんたね〜、あたしが居るって事忘れたなんて、それでも仲間かぁ〜〜〜!!!?」
「ご、ご、め、ん〜〜〜。あ、やっ、ぺ、の、か、お、み、たら、な、つか、し、く、なっ、ちゃっ、てぇえぇぇえぇ〜〜」
 思いっ切り揺さぶられて、真里は目が回った。
「ちょちょ、圭織、その辺でやめてあげたら?真里苦しがってるっしょ」
「あ、ご、ごめん。つい取り乱しちゃって」
 むせる真里の背中を擦りながら、彩は二人を招き入れた。

 居間で紅茶を啜りながら、真里と圭織は、玲夢をあやす彩を見る。
 自分達の知っている彼女とは、雰囲気が全く違っている。
 落ち着いたと言うか、大人しくなったと言うか・・。恐らく、母親になったからであろうが。
 二人が感慨に耽っていると、彩がこっちにやって来た。
「んで?今日は何の用?」
「え?何の用って・・・・・・何だっけ?」
 真里の方を見て尋ねる圭織に、二人はずっこけた。
「今日オフだから顔見に来たんだろーがよ!」
 真里の叫びを聞いて納得する。
「ふふふ・・・・あんた達、相変わらずだね〜。全然変わって無いよ」
 彩は、少し笑って紅茶を口に運ぶ。
「彩っぺは、変わったっしょ」
「そうそう。なんか、落ち着いたってゆーか・・」
 二人は、彩を見て再度納得した。
「そうかな?あんまり変わって無いと思うけど」
「雰囲気って言うのかな。なんか、現役の時よりも大人びてる」
 彩は、照れ臭そうに笑みを浮かべて、紅茶を飲み干した。

 お昼の時間になり、近況等も報告し合いながら、箸を運ぶ。
「そう言えばさぁ、また増えたんだって?」
「あぁ・・・・うん」
「かお?どうしたんだよ?そんな俯いてさ・・」
 真里が、覗き込むように顔を見た。
「なんかね・・・怖いんだ・・」
「怖いって?」
「うん・・・・・・私達、これから何処に向かうんだろうって・・・考えたらさ、なんか怖くなっちゃって・・」
 寂しげな笑みを浮かべ、右手の動きも止まってしまった。
「裕ちゃんって凄いよね。リーダーって、物凄いプレッシャーが掛かるんだ・・・・時々ね、逃げ出したくなる時が有るんだよ・・」
「圭織・・・裕ちゃんだってね、最初の頃はあたしにそうやって愚痴零しに来たもんさ」
 彩は、一旦箸を止め、彼女の目を見据えて笑った。
「今度出すCDが売れへんかったらどないしよーとか、仕事でミスした時なんか、あたしと平家さん捕まえて自分の部屋でお酒に付き合わせたり・・・リーダーだって、人間だよ。裕ちゃんはああいう性格だから皆の前では強気な姐さんだけど、あたしや平家さんと二人っ切りの時は、寂しがり屋さんになっちゃうんだ」
 昼ごはんを口に運びながら、彼女は話を続けた。
「裕ちゃんにはさ、あたしや平家さんが居たけど・・・圭織には、真里っぺや圭ちゃんが居るじゃん。なっちも居るじゃん。辛い事が有ったら、頼ってもいいんだよ。それに、後ろ向いてちゃダメさ。前向きに行かないと。ね?」
 圭織は、真里の方を見た。
「彩っぺの言う通りだよ。愚痴聞くなら裕ちゃんの時で慣れてるしさ。それに・・・これから何処に行くかなんて、誰にも解んないじゃん。何処に行ったってさ、全力を尽くして前に走ればいいじゃん。息切れしそうになったら、言ってよ。あたしだけじゃ無くてさ、皆に。ちゃんと支えてくれるよ」
 真里は、言った後に照れ臭くなってご飯を食べようと箸を動かした。
「・・・・・ありがとね」
 彼女は、二人に向かってにっこり微笑んだ。
「彩っぺ、おかわり」
「あんたもう食べたの?」
「だって美味しいんだもん」
 圭織と彩は、顔を見合わせてクスッと笑みを零した。

 残暑の日差しが眩しい、ある秋晴れの日の来客だった。

「ある秋晴れの日に」(完)

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 2001年9月10日から、のべ人の方に閲覧していただきました。ありがとうございます。

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