「届くところから……」
衣装室に入ったら、
「よっ! ほっ! う〜ん」
って、矢口さんが隅の方でイスにのって棚の上の箱に手を伸ばしてた。
矢口さん…そりゃ、無理ですよ。
あと10センチ近く足りないですもん。
「矢口さん、取りましょうか?」
声を掛けたら、イスの上で振り返ろうとして、フラフラしてる。
「おっとと……よっすぃ〜、お願い」
何とかバランスをとって、ニコッて笑ってイスから降りる。
代わりに上って手を伸ばすと、私でもギリギリ届くって感じ。
「ちょっと待ってくださいねぇ…これ…ですか?」
「それそれ! よっすぃ〜、もうちょっと。ガンバレ〜!!」
いや…そんなに頑張らなくても取れるんですけどね。
棚からソッと降ろしてみると、それは小物箱みたいだった。
「これ、どうするんです?」
箱ごと手渡しながら、聞いてみた。
「ん〜と……あ、これこれ!」
それはピンク地にラメみたいなキラキラが入ったバレッタ。
「それ……」
「ホントはきょう、編み込みにしたかったんだけど、加護がもうしちゃってたからさ。ちょっとワンポイントになるもの、ないかなって……」
相変わらず、矢口さんは髪型とかがかぶるの、嫌がるんだよね。
私なんか、「ちょっとくらいいいか」って思っちゃうんだけどさ。
私服なんかじゃ、ごっちんと同じ服だったりするし。
そんなこと考えてたのが顔に出たのかも。
矢口さんは、ニッて笑って言った。
「こういう細かいことが大事なんだよ」
そこでちょっと言葉を切って、
「…少なくても…私達が追加されたときはね」
って続けた。
「ちょっとでも、他のメンバーと違うって思われなきゃ……損じゃん」
私の方をちょっと見上げて笑ってた。
(そうかもしれないな)
何となく納得させられるものがあった。
「でも…無理したら続かないし…難しいんだけどね」
鏡に向かってバレッタの位置を直しながら、そう言って……。
「まぁ、自分の手が届くところから…始めるのがいいのかもよ」
私がやっと下ろしたバレッタを髪につけて、矢口さんはいつもの笑顔だった。
「届くところから……」(完)
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