「沈む夕日 輝く星」
新幹線の車中。席へと戻る途中で、ふと外を見たら真っ赤な夕焼けだった。
あまりにきれいな夕焼けだったから、席についてからも窓からずっと眺めていた。
地方コンサートも大成功で終わって、東京へと向かう帰途。隣の席は圭織。眠っているモデル然とした整った顔が、夕日に照らされて夢のようだった。
(…北海道の夕焼けも、きれいだったなぁ……)
友だちとの下校風景。他愛もない会話。次第に赤く染まる空――。
もう戻れない時。
昔を思い出しながら、夕日を眺め続けた。
そのうちに日も沈み、代わって1番星が。
赤から薄紫色の空となり、その色がだんだん、だんだん、濃くなっていく。それにつれて星の数も増え、いつの間にか一面の星空だった。
東京では見られないほどの、目にまぶしい星々。
(…そう言えば…室蘭から東京に出てきたばかりのときは、星ばっかり探してたなぁ……)
星が見えないと言っては泣き、懸命になって星を探してはホームシックを癒(いや)していた。
当時、同室だった圭織と一緒に緑の多い公園を探し、2人でふるさと・北海道について語り合った。
スーパーで鮭の切り身を買ってきて、2人で焼いて食べたことも――。
(「やっぱり、北海道の鮭の方がおいしいね」って、2人で笑いながら泣いたっけ……)
そうしたなかでも、東京での生活に慣れ、忙しさに流されながら、望郷の思いも心の奥隅に追いやっている毎日。それでも、その思いは薄れてはいないみたいだ。
はっきりと見えていた星々が、何故だか潤(うる)んでよく見えなくなってしまった。
「…なっち……」
突然呼ばれて振り向くと、圭織の顔だけが浮かんで見えた。
「…なっち…泣いてるの?」
寝起きの圭織が、怪訝(けげん)そうに、心配そうに顔を覗(のぞ)き込む。
言われて頬に手をやると、涙にぬれていた。
「……星を見てたの…すごく…きれいだよ……」
涙をぬぐいながら、(圭織にだったら……恥ずかしくないや)と思った。
「…こんなたくさんの星、久しぶりだね……」
私の顔越しに、窓の外の星を見つめる圭織。
「…うん……」
それからしばらく、2人で黙って星空を眺めていた。
「ねぇ、かおりん…」
「ん?」
星空から目を移した圭織の顔も、とても懐かしそうで、しかも輝いていた。
「今度さぁ……鮭、買ってくるから…焼いて…一緒に食べよっか?」
「…うん……」
私の目を真っ直ぐに見てほほ笑んだ圭織は、もう1度、星空に目をやると満足そうに、何度もうなずいていた――。
車窓から2人で見つめる夜空には、数多(あまた)の星々が輝いていた。
「沈む夕日 輝く星」(完)
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