「スペシャル・スマイル」
「後藤さ〜ん」
うちが張り切って呼んだら、後藤さんは控え室のテーブルにつっぷして「おねむ」の最中やった。
「…ん〜?」
眠そうな目を上げて、キョロキョロッて。
「お〜…加護ちん」
呼んだのがうちやと気がついてニヘ〜ッて笑う。
うち、後藤さんのこの笑い方、スキやなぁ。
「後藤さん、クッキー焼いてきたんでぇ、食べてくださ〜い」
「おぉっ! いいねぇ……きれいに焼けてるじゃん」
(おっしゃぁ〜!!)
心の中でガッツポーズ。
「食べてみてください」
うちが言うよりも早く、パクッ、サクサクサクッ。
「…ん〜〜……」
じ〜っと見つめるうちのことなんかかまわず、口をモシャモシャと動かし続けてる。
ゴックン。
「…あの…後藤さん?……」
後藤さんはまた、ニヘ〜ッて笑ってうちの頭をポンポンッて。
「おいしい! グッド…デリーシャス…加護ちん、やるじゃん!」
何だかありったけの言葉で褒めてくれた。
「やった〜!」
後藤さんに褒められると、いつもうれしい。
でも、今はいつも以上にうれしかった。
なんでかって言うと……。
「裕ちゃんとこ、行ってきた?」
「はい……」
そう。中澤さんに怒られてきた後やったから。
「裕ちゃん、遅刻には厳しいからねぇ」
相変わらず後藤さんはニコニコしてる。
「加護が悪いんです……」
「ん。そうだね〜」
……ときどき後藤さんは、言うことがきついことがある。
「でも仕方ないよ。遅刻したら、みんなに迷惑かけるからさ」
中澤さんに怒られたの、久しぶりやったから、予想以上に悲しかった。
鼻の奥がツ〜ンてしてくる。
そしたら、後藤さんがうちの両手を持って、か〜るく上下に振った。
「加ぁ〜護ちん」
「…はい」
上目遣いに見たら、すぐ目の前に後藤さんの顔があった。優しい笑顔やった。
「後藤もさ〜…最初はわかんなかったんだよねぇ。市井ちゃんとか裕ちゃんに言われてさ…スタッフの人とか、収録の予定組んでてくれてさ〜……準備して待ってるわけじゃん? うちらが10分遅れたらもっともっと、20分も30分も遅れちゃうんだよね……だからさ、遅刻は気をつけないとね?」
「はい…」
うつむいてたら、うちの両手を持ち上げてほっぺたをプニプニッてはさんだ。
「元気出そうよ、加護ちん」
うちの大好きな後藤さんの笑顔のアップ。
うちに元気をくれる笑顔やった。
「はい!」
自分でほっぺたをプニプニッてして、タコさんの顔で返事した。
後藤さんとうちと、2人で笑ってた。
「スペシャル・スマイル」(完)
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