【小説コーナー】 ある日の娘。たち

「ハッピーバースデイ・トゥ…おばちゃん

【登場人物】
  • 保田圭
  • 加護亜依

「…えぇと…『お・誕・生…日・お・め…で・と・う』っと……」
 うちは今、おばちゃん…保田さん…宛てのメールを打ってる。
 きょうは12月6日……やけど…あと1時間で7日になってしまう。
 保田さんの誕生日が終わってしまう。やばい…やばいよ。

 きのうは誰よりも早く「ハッピーバースデイ・メール」を送る予定やったんや。0時になるのを待ってて……いつの間にか寝てしもた……。
 失敗、失敗……気を取り直して。

 きょうは誰よりも早く「ハッピーバースデイ」を言う予定やったんや…ホンマは。梨華ちゃんに先を越されてしまったけど……。
 ムカついたから、ののと2人で梨華ちゃんをからかって遊んだ。

 アカン……1回タイミングをはずしたら、「おめでとう」って言いにくいわ。
 そんなこんなで、ずっとおばちゃんと一緒やったのに、仕事が終わるまで結局、言えんかった……。
 せやから……メールでも送ろうかなぁって……今さらやけど。

「…こ・れ・か・ら・も…」っと……よしっ でけた
 携帯メールをもう一回読み返して…うん、満足。
 面と向かってやったら恥ずかしいけど、メールやったら全然平気や。
 送ぉ信っ
 ふぅ〜。これで心置きなく寝られるわ。

 ♪〜〜 ♪〜〜 ♪〜〜……
 ん〜? 誰や、こんな時間に。
 わっ…保田さんからや……。

「も…もしもし……」
『もしもし、加護? メールありがとう。でも、どうしたの? こんな時間に』
「えぇ〜〜と……ごめんなさい……」
 まさか電話がかかってくるとは……余計にテレくさいやん……。

『別に謝んなくてもいいんだけどさぁ……嬉しかったよ』
「ホンマに?!」
 すっごい嬉しかったけど…ここでめっちゃ大事なことを思い出した。
 プレゼントが…何にも無い……。

「あ…あのぉ〜……プ…プレゼント…何がいいですか? 何がいいか分からなかったから、聞いてから買おうかなって思って……」
 こんなんでゴマカせへんかもしれんけど……。
『ホント? そんな、いいよぉ』
 ……ゴマカせたみたいや……。

『あ、そうだっ 加護にお願いがあるんだけどさぁ』
「はい。何ですかぁ?」
『…おばちゃん…って呼び方…やめてほしいんだけど……』
 ……やっぱり気にしてたんや。

「えぇですよ。あ、そうやっ これからは『圭姫』…って呼びましょか?」
 大サービスやね。
『え……いや、それは……』
「アカンですか? ゴロが悪いんかな…そしたら『保田姫』
『…いや…あのね、加護……』
「ただ単に『姫』でもえぇかも」
『………加護…やっぱ、おばちゃん…でいいよ……』
 えぇんですか? 実は気に入ってたとか?

『…ホントにメールありがとうね…じゃ、おやすみぃ』
「あ、ちょっと待ってください
 ちゃんと言わんとね。
『ん? どうしたの?』
「あの……ハッピーバースデイ・トゥ…おばちゃん
 保田さん、電話の向こうでクスッて笑うてた。
「ありがと
 これからも、よろしくお願いします…おばちゃん

「ハッピーバースデイ・トゥ…おばちゃん」(完)

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