「寂しがり屋さん」
「姉さん?」
「何や? みっちゃん」
読んでた本から目を上げて、こっちを見る中澤姉さん。
「ホンマに寂しがり屋さんやなぁ」
「何がいな」
あたしが呆れて言うたら、ジロッとにらまれた。
「何がいなって…寂しいんやったら、娘。の楽屋、のぞいてきたらえぇのに」
「別に寂しがってないがな」
ムッとしたように言うて、プイッと横を向く。
あ〜ぁ、強がってからに。
あたし知ってるで。
さっき楽屋におらへんと思うたら、娘。のリハーサル、客席の隅のほうから見てたやろ。
そのくせ、終わりそうになったら、慌てて楽屋に戻って来て、本なんか読み始めて……。
ま、「あの娘。らの自主性に任せる」っていうのもウソやないんやろけど、かおりんと圭ちゃんを中心に、何とかまとまってるのを見て、ちょっと寂しいなったんやろ?
上手いこといってなかったら、それは心配やし、上手いこといってたら、それはそれで寂しいし……。姉さんの心も複雑やねぇ。
もっと素直になったらえぇのに。
あんまり無理したら、姉さんの体に悪いで? 歳なんやし。
そんなこと思い出して、あたしがニヤニヤ笑うてたら、またジロッとにらまれた。
「何がそんなに可笑しいんや?」
「別に〜」
あたしの態度が気に食わなかったらしい。
片方の眉をピクッとあげて、今にもカミナリが落ちそうだった。
コンコンッ。
これこそ救いの神!
「はいはいはい! 開いてるで〜」
姉さんの代わりに元気いっぱい返事をする。
「失礼しま〜す。あれ? みっちゃんも来てたの?」
ドアの隙間から、かおりんが顔を出す。
「ちょっと遊びにな」
「ふ〜ん…え〜と…裕ちゃん、ちょっといいかな?」
「どないしたぁ?」
機嫌が悪かったのなんかどこ吹く風。
急におすまし顔の姉さん。
「う〜ん、わかんないことがあって……」
「何?」
「あのね……」
かおりんの質問に、何でもないように受け答えしてる。
でも、姉さん、気づいてます?
今、ものすごい生き生きしてますよ。
やっぱり、「リーダー」じゃなくなっても、「頼れる姉さん」には変わりないんやね。
何か……あたしも嬉しなってきたわ。
頑張れ! 姉さん。
(かおりんも、みんなも、これからも姉さんを頼ってやってや)
口には出さずに、そう心の中でお願いした。
「寂しがり屋さん」(完)
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