「心の中で『いきまっしょい!』」
いやぁ…やっぱりステージの上って、独特の緊張感があるね。
娘。のときも感じてたけど、再スタートってことで、私の心の中もフォーマットされちゃったみたい。
加入当時の泣き虫・紗耶香に戻っちゃったみたいで、膝が笑うのを止められないよ。
ステージ脇から覗くと、ファンのみんなが今や遅しと開演を待っている。
薄暗い客席の明かりに浮かぶ顔は、どれも生き生きしててエネルギーに満ちあふれてる感じ。
どうしよう……圧倒されちゃいそうだよ……。
娘。時代に克服したと思ってたのになぁ。
あのときは、メンバー全員がライブになると燃えてて、特に我が永遠のライバル・圭ちゃんに到っては、ライブのために生きてると言わんばかりに張り切ってた。
もちろん、裕ちゃんやなっち、かおりん、矢口、後藤も新メンバーも、みんながライブに照準を合わせてた。
それに負けたくなくて、私も力を振り絞ってたっけ。
そうしてるうちに、本当にライブが好きになって。
楽しみで仕方なくなって……。
なのにさ。
今になって、このざまは何?
自分でも情けなくなって、母さん、涙も出ないよ……トホホ。
みんな、私にもう一度、力を貸してよ。
きっとこんな私を見たら、圭ちゃんはこう言うだろうな。
「紗耶香、何してんの? ボヤボヤしてないでよ。ホラッ! 行くよ?」
それから…それから……。
みんなで円陣を組むんだよ。
そして、裕ちゃんが口火を切るんだ。
「いよいよ本番やで。気負い過ぎんように。まず自分が楽しんで、みんなも楽しませて…」
ここらで、かおりんが口を挟む。
「悔いを残さないようにしよう」
「…うん。これまで頑張ってきたことを大切に。行くで? 頑張ってぇ…」
『いきま〜っしょい!』
「……よしっ!」
気がついたら、ちょうど開演時間。
スタッフの声に押されるように、ステージの上へと歩き出す。
気合いも十分。
適度にリラックス。
念のため、もう一度、心の中で叫ぶ。
『いきま〜っしょい!』
さぁ! 矢でも鉄砲でも持ってこい!
「心の中で『いきまっしょい!』」(完)
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