「ネェさんに乾杯!」
――ハロプロ・コンサートが直前に迫って、私こと〈平家みちよ〉と中澤ネェさんはリハーサルの後に店に繰り出した。
「なぁ〜、みっちゃん聞いてるかぁ?」
「はいはい。ちゃ〜んと聞いてますよ」
手酌で日本酒を注ぎながら、何度も繰り返される中澤ネェさんの問いに同じように答える私。
2人で向かい合って飲んでいるときのネェさんは甘えたさん。自分の身の回りであったことを、とにかく私に聞いてほしくて仕方がないのだ。
(そこがまた、可愛いねんけど…)
テーブルの向こう側で、真っ赤な顔してトロ〜ンと私を見ているネェさん。
日ごろ、10人という大所帯の〈モーニング娘。〉でリーダー張ってるお人とは思えない。
「ネェさん、大丈夫かいな?」
「何が〜? あたしは全っ然だいろうぶ!」
だいろうぶって…既にロレツが回ってない。
「くっくくく……」
突然笑い出すし……。
「ネェさん、どうしたんやぁ?」
「あんなぁ、こないだなぁ、辻と加護と3人で控室におってな、なぞなぞしたんよ…」
「…ネェさん、頑張ってるんやなぁ」
私は(話は通じてるんやろか?)とか思いながら、妙に感心してしまった。私は、あのチビちゃんたちと会話できるか自信がない。
「ホンでなぁ、そんときなぁ、辻が出したなぞなぞ、面白かったんやでぇ」
ポッと赤く染まった色っぽい目元。話にノッてこいとばかりに、私の顔をジッと見つめる。
仕方がない。ノッてやろうじゃないですか。
「…どんな、なぞなぞやったん?」
途端に嬉しそうな表情になる。
「あんなぁ、『ちゃんと言いつけを守る子はだ〜れ?』って。答えはな〜んだ」
「はぁ? それ、なぞなぞです? ん〜……」
(こんなん、なんぼでも答えがあるやんか)
そう思いながらも、一生懸命考える私って……。
「〈よゐこ〉さん?」
「ブッブ〜! 惜しいけど違うねんなぁ」
何故だかかなり嬉しそうなご様子。
「…そんなん分からへんわ」
「降参? じゃあ教えて進ぜよう。ふっふっふ……」
不敵に笑うネェさん。そんな大層なもんなん?
「答えは……『いい子(裕子)おネェさん!』やて!! いや〜ホンマ、可愛い子らやわぁ〜」
「は?」
(……ただの親バカやんか……)
そんな思いが表情に出てしまってたらしい。
気がついたら、ネェさんがこっちを睨(にら)んでた。
「何や? 文句あるん?」
「…い〜え別にぃ。可愛いメンバーと一緒で、リーダーも幸せやろなぁと思って」
ワザと嫌みっぽく言ってみたんだけど……。
「そうやろ〜」
もう目尻が下がりっぱなし。
何かもう……うらやましく思う部分もあるが、やっぱり呆れるしかない。
「……はいはい。ネェさん、もう一献いこう」
「よっしゃ! 受けて立つでぇ」
互いに盃を満たす。
『乾ぱ〜い!』
――夜更けに2人の声が響く。後にはただ、酒飲みが盃をあおっているばかりだった。
「ネェさんに乾杯!」(完)
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