「痛いの痛いの…飛んでけ〜!」
「…はい。じゃ〜通していくよ。最後だからしっかりね!」
『は〜い!』
コンサートは大好き。
こうやってリハーサルするのも好き。
すっごく楽しいから。
飯田さんもみんなも、真剣な顔してるけど、やっぱり楽しそうにしてる。
曲の合間に入ったから、いつもみたいに、あいぼんと肩を組んだりして笑いあう。
それからクルッと振り向いて次の位置に走ろう……としたら、ステージがタテにグルッと回った。
(あれ?)
と思ったら、ズッデ〜ン。転んじゃった。
(もう! 何でこんなとこに段差があるんだよ。聞いてないよう!)
「あっちゃ〜。やっぱりやっちゃったか」
走ってきた飯田さんが、わたしのことをのぞきこんでた。ほかのみんなも駆け寄ってきてた。
「飯田さ〜ん」
泣きそうになりながら言うと、
「辻、『ここ段差があるから気を付けな』って何回も言ったでしょ」
……そういえば「危ないから」って何回も注意されてたっけ……忘れてた。
「どれ? あ〜ぁ、ひじ、すりむいちゃってるよ」
「痛いです……」
「そりゃ痛いわ。血、出てるもん」
みんなも痛そうな顔で見てる。保田さんが「救急箱くださ〜い」って、スタッフの人にお願いしてる。
飯田さんは……飯田さんは、ひじの傷をじ〜っと見てて、それから……傷を包むように右手を当ててくれた。
「痛いの痛いの…飛んでけ〜!」
……「痛いの痛いの…」ってやってもらったの、小学校低学年のとき以来かも。
でも…何だかホントに痛くなくなった気がした。
「どう?」
首をかしげて聞く飯田さんに、
「痛くなくなりました」
って言ったら、
「良かったね」
って。すっごくやさしい笑顔だった。
ホントに痛くなくなった。
…って思ったのはそのときだけで、その後、保田さんに連れられて傷口を水で洗って、消毒して……。
すっごく傷がしみた。
保田さんには悪いけど、やっぱり飯田さんの「痛いの痛いの…」の方がいいなぁ。
「痛いの痛いの…飛んでけ〜!」(完)
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