「私、生きてます!」
「ど…どうしよう……麻琴っちゃん…」
愛ちゃん……唇、紫だよ……そういう私も、気を入れてないと膝が笑っちゃうけど……。
「…コンサート…もうすぐ始まっちゃうね」
いつも飄々としてる感じのあさ美ちゃんも、最年少の里沙ちゃんも、初めてのコンサートを控えて、新メンバー全員が緊張でガチガチ。
このままじゃ、きっと何か失敗しちゃいそうだよ。
「どうしたぁ?」
「あ、飯田さん……」
颯爽と歩いてくる姿は、本当に落ち着き払ってて……私たちとは全然違ってた。
「き…緊張しちゃって」
いつも笑顔の愛ちゃんが、今にも倒れそうな表情。
「初めてだもんね。緊張もするさ」
……飯田さん…それだけですか?
「自分の胸に手を当ててごらん」
言われた通りに胸に手を当てる。
ドキドキドキドキ………。
心臓が、破裂しそうな速さで打ってる。
や…やっぱ、駄目っぽいよ……。
「いっぱいドキドキしてるっしょ?」
『はい』
4人の声がそろう。
「良かったね。みんな、ちゃんと生きてるよ」
満面の笑顔。
はぁ?……飯田さん……それはどういう…意味ですか?
「ステージに上がったら、ファンのみんなに、『私たちは生きてます!』って伝えてあげな」
「…はぁ……」
我ながら、かなり間抜けな声だったと思う。
ほかの3人も、戸惑いが隠せない。
「初めてなんだから、失敗してもいいよ。『私たちは生きてます!』って。ね? それだけ伝えられたら大成功だよ」
分かったような…分からないような……。
ただ一点だけは確かで。
それは、4人とも、何となく気が楽になったってこと。
さっきより、随分、表情が明るくなってる。きっと私も。
「さ、行くよ!」
『はい!』
とにかく、「今の自分」を見てもらおう。
いまさらジタバタしたって、それ以上のことは出来ないんだから。
……飯田さんが言いたかったことって…こういうこと…だったのかな?
そんな疑問を胸の中にしまって、先輩たちの後について、一生懸命にステージに走り出していった。
「私、生きてます!」(完)
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