「努力なんて大嫌い?!」
「ふぅ〜……」
やっと熱も下がって、ベッドから起きられるようになったけど、まだ体がダルイ。
「赤い日記帳」のレコーディングが終わって、すぐに風邪でダウンしちゃうだなんて……。
レッスンは苦手だし、(休みた〜い!)とは思ってたけど、病気じゃつらいだけ……健康には自信があったのになぁ。無念だぁ〜。
明日からは、レッスンに行かないといけないし。
努力って嫌いなんだよぉ〜!
あ〜ぁ……明日にならなきゃいいのに。
蒲団にくるまってドタバタしていると、1階からお母さんの大声が飛んできた。
「真希ぃ〜! 中澤さんがお見舞いに来てくださったよ! 早く下りて来な!」
裕ちゃん?! 〈あか組4〉で一緒になってから、ずいぶん仲良しになったけど、家に来てくれるなんて。
「お母さん、いいですよ。私が、上がらせていただきますから」
「いぃえぇ、あの子、もうずいぶん元気ですから。どうぞどうぞ応接の方へ……まぁ、ケーキだなんて…お気を遣わせてしまって、すいません……真希ぃ〜!」
玄関の方から裕ちゃんとお母さんのやり取りが聞こえてくる。
(もぉ〜…うるさいなぁ……)
思いながらも、
「はぁ〜い!」
と返事だけは元気にしておかないとね。
寝間着の上にジャージの上着を羽織って、トントンと階段を下りていった。
「こんにちはぁ〜」
応接間に入ると、裕ちゃんはコーヒーをスプーンでかき混ぜているところだった。
「こんにちは。初めて、ごっちんの家に来てもたわ……風邪、どう?」
裕ちゃんがニコッと笑ってくれたから、自然とソファの隣に座っちゃった。
そしたら、裕ちゃんは真面目な顔で、私のおでこに手を当てて、ウンウンとうなずいていた。
「…もう熱は下がったみたいやなぁ」
「今朝から、だいぶ楽になったよ」
「そうかぁ…みんな、心配してるで」
「…ごめんね……」
「何も謝ることあらへん。ごっちんの元気な顔見たら、みんな喜ぶわ」
裕ちゃんは、私の髪をクシャッてしながら笑ってくれた。
私も、すっごく嬉しかった。
「これ」
渡されたのは、ビデオ・テープ。
「『赤い日記帳』の振り付け。もっと早ぉに持って来たらよかったんやけど……」
「ううん。今、見ていい?」
「えぇよ」
デッキにセットして見てみたら、これがねぇ……難しそう!
「思ったよりも、動きが激しいやろ?」
「うん…」
不安になっちゃった。しかも、私だけ出遅れてる。
頑張んないと!
「ビデオよう見てな。ま、ごっちんはやったらできるから。無理して風邪ぶり返したらアカンよ?」
「うん……」
本当は振りを教えてもらいたかったんだけど……笑顔の裕ちゃんに目を見つめられたら、「うん」としか言えなかった。
裕ちゃんは、元気な私を見て安心したのか、すぐに帰っちゃった。
どうしよう! レッスンしたいよう!!
早く明日にならないかなぁ……。
「努力なんて大嫌い?!」(完)
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