「出会いは、いつも遙かに」
――はぁ……時が過ぎるのって…早いねぇ。
にこにこしながら辻が話してるのを見ていると、本当にそう思う。
辻や加護が入ってきて、今みたいに中学校の話をしていると特にそう。
北海道での自分の中学時代のことを思い出したり。
バレーボール部で、先輩お気に入りの同学年の子とケンカして、先輩に呼び出されたこと。
そのとき、売り言葉に買い言葉で、先輩にビンタされて意地でも泣かなかったこと。
帰ってから大泣きしたこと。
好きな子を目の前にして、真っ赤な顔のまま、最初から最後まで無言で見つめてしまったこと。
さまざまなことが思い出される。
シャ乱Qオーディションで、なっちやあやっぺ、裕ちゃん、明日香、平家のみっちゃんとも出会った。
合宿中は、裕ちゃんやあやっぺにビクビクしっぱなしで……。
結局、グランプリはみっちゃんで、ホント悔しかった……。
でも、5人が呼び出されて…「愛の種」を手売りして…〈モーニング娘。〉としてデビューできることになって……。
「モーニングコーヒー」でメインを勝ち取ったと思ったのに、つんくさんからパート割りの変更を突然言われて、目の前が真っ暗になったかと思って……めっちゃ泣いたんだよねぇ……。
それでも、この5人で頑張っていこうって思ってたら、今度はメンバー増員だって。
もう、頭のなかがパニックだった。
訳が分からないままに、圭ちゃんとまりっぺ、紗耶香が入ってきて……「〈モーニング娘。〉は、どうなっちゃうの?」って不安で……。
新メンバーの3人も、分かんないなかで泣いてばっかりだったし。今じゃ想像もつかないけどね。
1番最初に圭ちゃんと話すようになって、まりっぺとはタンポポで一緒になって、紗耶香の負けず嫌いにちょっとビックリしたり……。
後藤も、今度の4人もそうだけど、最初はやっぱり不安で…それでも、一緒にやってみたらホント楽しくて……「出会い」ってスゴイと思う。
〈モーニング娘。〉全体として、今まで出来なかったこととか、今までとは違うことが出来るようになって。
それで、かおり自身も、それまでと違う可能性を感じたり……。
「出会い」は、結果的には楽しいことだと思う。
でも…「別れ」はいつも寂しい。
明日香もあやっぺも、紗耶香も、みんな、かおりの大切な人たちばかり……。
今でも、携帯とか、メールとか、連絡はとれるけど、いつも一緒にいられないって、ホントに寂しい――。
「……かおりん…かおりん!」
ハッと気がつくと、まりっぺが、かおりの膝を揺らして呼んでる。
みんなも、かおりのこと見てる。みんなと出会えて、ホントに良かった。
「…かおり…みんなのこと、大好きだよ……」
「ハァ〜?」
かおりの心からの言葉なのに、まりっぺだけじゃなくて、楽屋にいるみんながキョトンってしてる。
……何で?
「はいはい。かおりん、もうすぐ収録本番やでぇ。急いで準備してや」
裕ちゃん、かおりのこと、子ども扱いしてない? もう、ちゃんと準備できてるよぉ。
なっちと後藤も、2人で目を合わせてニヤニヤしてるしぃ。
何かちょっと、嫌な感じぃ。
「まぁまぁ、かおりん。先輩として、率先して本番に向かう姿を後輩に見せないと。一緒に行こうよ」
圭ちゃんが、手を引いてくれる。
まぁね。先輩らしいところを見せないとね。
「ボ〜〜ッとしてても、実は頼りになるんだもんね!」
……そ、そりゃ、ちょっとはボ〜ッとしてたけどね……圭ちゃん、痛いところ突いてくるね。
「…辻、行くよ!」
「は〜い」
――これから、まだまだいろんなことがあるんだろうなぁ。
バタバタ走ってくる辻を待ちながら、フッとまたそう思う。
――いつかは、みんなと別れ別れになっちゃうのかなぁ?
そんなことを思いながら……。
「出会いは、いつも遙かに」(完)
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