「いつも心に…キャンディを!」
ガサガサ〜〜!!
赤、黄、青――カラフルなキャンディが飛び散る。
「飴(あめ)ちゃ〜ん! いっぱ〜い!!」
希美がキャンディの山に飛び込み、埋もれてはしゃいでいる。
満面の笑み。
「ど・れ・に・しようかなぁ〜?」
キラキラ輝く瞳。
下がる目じり。
「メロン、オレンジ、ミント……う〜〜〜ん……」
笑顔のままで、迷いに迷ったすえ。
「いちご〜!」
包装紙をあけて取り出した、赤いキャンディをまじまじと見つめる。
グ〜〜ッと顔に近づくキャンディ。
グ〜〜ッと……近づけすぎて、すっかり寄り目。
「い・ち・ご〜!」
パクッ。
「おいひぃ〜!」
ジタバタと喜ぶ希美の動きにあわせて、キャンディもカサカサ、カサカサと騒ぐ。
「ん〜と、ちゅぎはぁ〜」
口の中にいちご味をいっぱいに詰めたままで、キラキラと目を輝かせる。
「え〜とねぇ……ん?」
殺気を感じる。
キョロキョロと見渡すと……。
テニスボール大のキャンディが、ギロッとにらんでいた。抹茶味のキャンディ。
ポカ〜ンと呆気にとられていた希美に、迫る抹茶味!
慌てて逃げようとするが……、
「あ、いた〜い!」
カプッと左手に噛みつかれてしまった!
……左の二の腕をギュッとつかまれている感じがする。
ハッと気がつくと……メンバー全員が、希美に注目していた。
(…あれ? なに?)
もう1度、二の腕をつかんでいた手に、ギュッと力が入る。
見上げると、圭織が真剣な顔で希美を見つめていた。次第に意識が戻ってきた。
(!! 収録中に寝ちゃったんだ!)
きっと誰かが話を希美に振ったのだろう。皆の視線が集まっていた。
(ど、どうしよう……とりあえず…)
取りあえず……えへへっと笑ってみる。
「辻ちゃんは、いっつも可愛いねぇ……って、そうじゃなくって! 辻ちゃんの1番大事なものは何かな?」
司会の男性が、話を振りなおしてくれたのだが、
「えっとぉ…………」
とっさに答えが見つからなかった。
「…ののは飴だよね?」
仕方なく、なつみが話し出す。
「そうそう! 『ここに貴重品置いてください』って言われて、飴が入った袋を持って走ってきたもんねぇ?」
真里が話をつなぐ。
「…飴ちゃん、おいしいです」
なつみと真里に助けられて、何とか収録は進んでいった。
「辻、番組中に寝ちゃダメでしょ!」
「…はい。ごめんなさい」
収録が終わって、圭織に注意される希美。
「眠いかもしれないけど、楽屋とか、車の中とか、そんなときは寝てていいから、番組中はいっつも元気いっぱい! ね?」
「はい」
昨日の夜は、レッスンで遅くなったのだ。
圭織もそのことは知っているから、それ以上は叱らなかった。
「…よし! 次、移動だから、用意してきな」
「はい」
ペコッと頭を下げて荷物のところへ行こうとする。
「あ、辻」
「はい?」
立ち止まった希美に歩み寄って、手に何かをにぎらせる圭織。
「ガンバだよ?」
「はい!」
にっこりとほほ笑む圭織に、天使の笑顔を返す希美。
1つうなずくと、圭織は希美の頭をぽんぽんっとして歩いていく。
それを見送って、てのひらを開いてみると…キャンディだった。
袋を開けて、その赤いキャンディを口の中に入れる。
いちごの味が口の中いっぱいに広がった。
「いつも心に…キャンディを!」(完)
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