【小説コーナー】 ある日の娘。たち
「Hide-and-seek(かくれんぼ)」
「…!……」
ロッカーを開けたら“その女性”はそこにいた。
細い体をますます縮こまらせてる。
人差し指を唇に当てて「シ〜…」って言いながら。
一応、控え室をグルッと見回して、ほかにだれもいないことを確認する。
「…裕ちゃん…何、してんの?」
正月のハロプロライブまで後1カ月を切った。
リハーサルにも熱が入ってきたっていうのに…。
「ほかに、だれもおらへんか?」
裕ちゃんは、私の呆れた様子にもお構いなし。
「大丈夫だけど…裕ちゃんは矢口みたいにロッカーの中に入ったりしてどうしたの?」
「その矢口から隠れてるんや」
そう言えば、さっきから矢口も出番待ちだっけ。
「裕ちゃん、何か矢口に悪いことでもしたの? 何で逃げてんの?」
「別に悪いことしたわけやあらへん。ちょっとな。かくれんぼ」
かくれんぼ?
いい大人になって、かくれんぼはないんじゃない?
裕ちゃん、もうすぐ三十路に…。
「…圭ぼう…今『もうすぐ三十路になるくせに』って思たやろ?」
ブンブンブンッ。
音が鳴るぐらい首を横に振る。
「そんなこと思ってないよ…だから…そんな目でにらまないでよ」
視線が突き刺さるかと思ったよ。
「まぁえぇわ。あれ? そう言えば、きょう圭ぼうの誕生日やなかったっけ?」
あのね…「あれ?」じゃないよ。
そうです。
きょうは確かに私の誕生日、12月6日ですよ。
「そかそか。後でプレゼントするから、今は隠れさせといて」
右手でシッシッて追い払うしぐさ。
…私は邪魔なネコですか?
「とにかく、矢口に見つからんようにせんとな」
何もそんなに一生懸命に隠れなくてもいいと思うけど。
「それはいいんだけど…ここ、私のロッカーなんだけど?」
汗ビッショリなんだから、着替えさせてよ。
「そんなこと言わんと、もうちょっと……」
「いた〜!」
あ、矢口。
「裕ちゃん、見〜つけた」
本当に嬉しそうに入り口から駆けてくる。
「あ〜もう! 圭ぼうのせぇで見つかってしもたやないの」
そんなこと言われたってねぇ。
「今度は裕ちゃんがオニの番だからね」
「しゃあないなぁ…あ、そうや! 圭ぼう、あんたも参加させたるわ」
「え?!」
何で私まで、かくれんぼしちゃきゃいけないわけ?
「きょう、誕生日やろ? 私と矢口からのプレゼントってことで」
「あ、いいねぇ」
矢口も賛成してるけど…。
「…どこら辺がプレゼントなわけ?」
あ然として、そうつぶやいても裕ちゃんも矢口も関係なし。
裕ちゃんはもう後ろを向いて
「もうい〜かい?」
とか言ってる。
「ま〜だだよ!」
…矢口もノリノリだし。
「圭ちゃん、一緒に隠れよう」
「ちょ、ちょっと!」
矢口に腕を引かれて控え室を連れ出される。
「あのさぁ、私着替えたいんだけど」
「そんなの後、後」
裕ちゃんと同じで、私の話なんて聞いてやしない。
…まぁ、ここまできたら乗りかかった船だよね。
「えぇとねぇ…あ、今度は衣装室に隠れよう!」
「はいはい」
嬉しそうに私の手を引く矢口について廊下を走る。
あれ?
何だろうね。
何か楽しくなってきたよ。
こんなプレゼントも…あり、かもね。
「Hide-and-seek(かくれんぼ)」(完)
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